女の人

女の人の性器は気持ち悪い。

部位がたくさんあって、複雑で、ぬかるんでいて、生々しくて、気持ち悪い。あまりにも肉すぎる。トイレで、お風呂で、裸になった部屋の中で、どうして自分にこんなに気持ちの悪いものがついているんだろうと思う。穴があいているというのが、特別に嫌だ。欠けているみたいだ。何かが埋まるように出来ているというのが耐えられない。気持ちが悪い。

おっぱいも嫌。おっぱいという名前もふざけている。気持ち悪い。ぶよぶよして、意味がない。支える紐がないといけないのも意味が分からない。苦しくて重たい。最近、左乳首がかゆすぎて、ちぎり取りたい。「おっぱい大きいね」と言われるたびに自尊心が死んでいく。一度祖父より歳のいったジジイに言われたことがあり、「失礼なのでやめてくれませんか」と怒ったことがあるのを忘れられない。ずっと忘れられない。

女の体を持て余している。

男の人がTシャツを着た時の、胸にできるたるみにとてもあこがれる。私には一生出来ない。背筋の下に出来るしわも綺麗。ずるい。


ジェンダーはfluidなものだ、と学生の時にインタビューで読んだ。リリー・デップのインタビューだったと思う。確か彼女にガールフレンドがいた時。いいな、と思って、何度か考えたけど、自認はシスジェンダーヘテロセクシャル

大学生の時、声をかけられて知らないおじさんと居酒屋に行った。おじさんは出会いがしらから私の二の腕を掴んできて、すごく嫌だった。私はイカの一夜干しを食べながら、アナと雪の女王の話をした。アナと雪の女王のエルサのセクシャリティって知っていますか。おじさんは聞かない。#GiveElsaAGirlFriendってハッシュタグが最近問題になっているの知っていますか、アセクシャルでいいじゃないかという動きもあって。でもとにかく、異性愛じゃないのはディズニープリンセスで初めてなんですよ。おじさんは何にも聞かないで、いろいろ調べてて偉いね、と言う。北口のホテルに行こうと誘われる。私は断る。


年々男の人が嫌い。多分、年々女体を持っている自分が嫌い。だけど私は男の人を愛している。男の人たちが楽しそうにしていると嬉しい。女の人は苦しい。苦しくて、つらい。

『母親になって後悔してる』を読んでいるけど、つらくてすすまない。私が子供が出来たら思うだろうことが書いてある。

ありのままで、という呪い。そのままの私が一番、という呪い。


一時期、可愛くて若い女の子が信じられないくらい憎くなっていた。自分のどこにこんなコンプレックスがあったんだろう、と思うくらい、強い衝動だった。ああなりたかったんだ、という気付きにショックがあった。軽視して、下に見て、私にだって価値があるはずだって思いこもうとしてたけど、ずっとうらやましかったんだ、というショックだった。可愛い女の子。可愛くあろうと努力できる女の子。自分を大事にできる女の子。ネイルをする。まつ毛をあげる。眉毛をととのえる。パーソナルカラーを知っている。骨格診断をする。


母親に眉毛を整えられそうになったことがある。泣きながら断った。あの時の苛烈な感情はなんだろう。なぜ、よりよくいなきゃいけない、という反発。どうにか、よりよくいたい、という欲。の二律背反。


可愛くしたり、健康になる必要がなぜ私にあるんだろう?どうして同時に私はこんなに自分をないがしろにしたいのだろう?その癖、どうして私は自分のことが好きなんだろう?

私は誰かが死ぬその時も、私のことを考えるだろうという確信がある。その人が死ぬ瞬間の私の心の動きを考える。


救えないよ。