悲しい思いをしたので泣いてしまうかもしれないと思ったけれど泣かなかった。一瞬喉の奥が詰まっただけだった。


友人たちと新年会をした。久しぶりに会った友人たちは変わらぬようで、でも少しだけ変わっていて、私は動揺してなんだかお酒をたくさん飲んでしまった。そして、そんな大層な話をしていたワケではないのだけど、気の置けない仲だからこその乱雑さで、お互いの地雷原を歩き回るような羽目になったのだった。途中、そういえば私ってこういうことを言われやすいし言ってしまうからやめたいんだった!と思ったのに、久しぶりの友人に対してのブレーキの踏み方を全く覚えておらず、ただアルコールの向かう方向へと一生懸命走ってしまった。自己嫌悪でいっぱいになる。人の話をいちいち訂正するのは好きじゃない。議論する気のない人との会話になると余計そうなるので、好きな話題にも興味のある事柄にも深掘りしないように気をつけた。ちいかわのナガノは一期一会を書いていた人なんだよ、というのに、それカナヘイと混ざってない?と訂正するのも諦めた。流れを止めるのは面倒臭かった。

 


そういや今仕事は何をしてるのかと聞かれ、働いていないと答える。「生きてるだけで偉いよ」と言われる。彼曰く、この世には何種類か人間がいて、私は「生きてるだけで偉い」人間らしい。他には、「朝起きることができて偉い人」、「仕事をしていて偉い人」などがいて、それぞれ出来る範囲が違うんだよ、と教えてくれた。私は生きてるだけで偉い人。生きてるだけで辛い人だから、生きてるだけで偉い人。急激に悲しくなる。

「目標ってある?」と聞かれる。ないと答える。「単純なことだよ、長期休みのために頑張るみたいなさ」と彼が言う。「勝手に作られたシステムの中で目の前にぶら下げられたニンジンをありがたがるみたいで嫌だ」と私は素直に返すと、「またそんなこと言ってるの」と目の前の友人が笑う。急激に悲しくなる。「社会システムに反抗しようとしてる」といじられる。そんなことしてないと私は答えるが、流される。私は黙り込んでしまう。なんだか眠そうだねと周りが笑う。元気出してよ、もっと飲もうよ。私はウーロンハイを頼む。本当は別に飲みたくないけど、笑わなければいけないので、頼んで飲む。

 

私は口が軽いらしい。どうせ広まるんだろうな、と覚悟して話しているらしい。自覚がなかったのでビックリした。固い自覚もないが。思えば、特に口止めされなかったことなら話していいと思ったことは話してしまっている、かもしれない。そうか。私が信頼している友人を、必ずしもみんなが信頼しているわけではないのだ。気付いてやっと恥じた。私のアホバカカス。もう誰も、私に何にも教えないでほしい。


二軒目に行くことになる。私は働いてないから明日の予定がないので、ついていく。ジントニックハイボールを飲んだ。隣のネパール人がしきりに話しかけてくる。富士山に登った話を殊更大袈裟に頷いて、すげー!と返しておく。恋人が出来た子に、全く興味がないのに恋人の話を聞いてみる。出身地と職業を教えてもらう。遠距離って大変だね、と言ってみる。こっちで職探ししてくれてるんだ、とのこと。よかったね、と言ってみる。ジントニックを飲む。

恋人がいる子②は結婚するつもり、と言う。そうなんだ、と答えてみる。

隣の友人に、クリスマスに後輩たちと遊んだ話をする。「ちょっと待って。その場にいる人、誰も恋人いないってこと?」と突っ込まれる。笑っておく。

 


好きなことは好きと言わなければいけないという話になる。みんな大好きだよ、とみんなが言い出す。私も嬉しくなって、みんなのこと大好きだよ、と言う。浅いなあ!といじられる。私はみんなのことが大好きで、みんなもそのことが分かってるけど、そう言われる。それに、私も誰かに言うことがあるのだ。誰かの愛をけなす。それに愛を持ったつもりになって。

 


隣のネパール人の連れの日本人がスタッフと揉めてる。白けた私たちは駅に向かうことにする。

 


友人が帰りたくないと言ったので二人でカラオケに向かう。酔った友人は寝始める。私は四時間歌い続ける。誰も聴いていないので楽だった。始発が走る時間になったのでもう帰りたいと友人を起こした。すると「靴がない」と言う。訳がわからない。しかし本当に、カラオケルームのどこを探しても靴はなかった。どうしようもなくなってフロントに電話で聞いてみると、届いてるとのこと。どういうこっちゃ。靴を履いている私がフロントまで取りに行く。「どんな忘れ物ですか」と若い店員に笑われる。「ホントに」と私も笑う。靴を履かせて友人をタクシーに乗せて見送る。私は人気のない駅に向かう。カラオケ代をもらうのを忘れたな。まあ、もらえないだろうなと思っていた。

 


なんで飲んでしまったんだろうと思う。なんでオールなんてしてしまったんだろうと思う。山手線のホームで水を買って頑張って飲む。どうか気持ち悪くなりませんようにと祈る。

 


帰り道、薄暗い中で自転車を漕ぎながら、ものすごく悲しくなっていった。わけもなく悲しかった。考えていけば、理由は分かるんだけど、そんなのも嫌だった。泣くかなと思ったが泣かなかった。電灯が少し滲んで見えただけで、私は坂を急いで滑り降りて、家に帰ってきた。

 

風呂に入る。パンツのゴムに沿ってびっしりと湿疹が出来ていた。ずっとタイツを履いていたからかもしれない。痒くて悲しい。本当に股間が嫌いだ。削り取りたい。無くなってほしい。リカちゃんや、ポポちゃんみたいになりたい。真っ平らで、何もなかったら、どんなに。


2022年は変な年で、でも最後の方は楽だったし楽しかったんだけど、それは思考のリソースを他のことに全投げしていたからだと気付いてしまった。つまり本来の私の思考を今日改めて思い知って、かなり困った。そうだった、これだった。

生きている知っている人間に会うのは面倒だ。どうしたって、私のことを考えなくてはならなくなる。人はみんな鏡だからとゆずが言っていた気がする。ゆず、嫌いだ。

 


寝る。