祝病院

心療内科に行った。


医者と話す。

精神科医ハンニバル・レクターしか知らないので、この人は人を食べるだろうかと私は考える。医者は細身のオールバックで、靴下は縞々で、クロックスを履いていた。親しげに話されるので適当に話す。40分で私の人生を聞かれる。私は頑張って言葉にする。私の取捨選択した情報で医者は診断をしなくてはいけない。何という職業だと思う。

躁鬱病PMDD甲状腺の病気、か、その他の可能性を示される。診断はすぐには出来ない。仕事はどうするのかと聞かれる。わからないと答える。解雇されちゃうよ、と言われる。構わないしもうどうでもいい、と言った。来週母親を連れてこいと言われた。検査をすると採血をされた。左に刺された後、やっぱり採れなかったから右に刺された。もう少し深く刺せばいいんだな、と言われ、怖すぎる、と笑うと、大丈夫大丈夫!とのこと。大丈夫とのこと。

もしかしたら診断はつかないかもしれないと私は思う。そうなると、この自分は病気ではないということになる。

自転車を漕ぎながら、なんだかしょうもない人生だなと思う。

 


復帰する気もないのに休職してるのも気持ち悪くなってきたので、もう退職で構わないと母親に話す。正直自分がどうしたらいいのか分からない。何も。

母親と話した。父親の話を。父親は私と話をすることを躊躇っているそう。私もそうだろうと思った。

怒られると思う? 問い詰められるのが不安?と聞かれる。そんなことは思っていないけど、のあとがあまり言葉にならない。私は父親と話したことがほとんどない。話すことがない。昔はよくしゃべりかけていた気もする。しなかった気もする。父親はタフで、体育会系で、農家の長男であり、大企業の偉い人で、仕事が好きで、家事はやらず、外に出るのが好き。私は父親を嫌いではない。好きだ。ただ話すことがない。私はあまり父親好みの子どもではない。ことに負い目がある。

「私はいい子になれなかったから、申し訳なくて、何も話せない」と伝えた。本心だった。

「あなたはいい子だよ」と言われる。犬が私に体重をかける。西日がよく入るこの家が好きだ。グッド・ウィル・ハンティングを思い出す。ロビン・ウィリアムズマット・デイモンを抱きしめる。あの昼下がりの部屋を思い出す。

「それに、親が思ういい子って、都合がいい子ってことだよ。そんなのにならなくていいんだよ」

と、母親が泣いてる。また泣かせてしまったな、と私は思う。

 


良い人生を送りたい。

私はずっと15歳みたいなことをしている。

 


引っ越しをしたので、部屋に本棚が5つある。私の財産などこんなものだ。

フィクションから与えられたものを現実に還元しなくてはいけない。と誰かが呟いていた。

やり方がわからない。囲まれ続けてきたのに。

好きなものはなんですか。と医者が聞く。

お前なんかに答えられるわけないだろう、と私は思いながら、映画や小説や漫画を読むのが好きです、と答える。フィクションを見ていると、自分のことより架空の世界の方が心配になるから楽。私が不在のまま夢中になれるから好き。

と、40分で医者には話せない。